地理情報システム学会 中部シンポジウム 『中部を拓くGIS』


【日時】平成12年12月1日(金)
【会場】名古屋都市センター 大研修室
    (名古屋市中区金山町一丁目1番1号金山南ビル内)
    案内図:http://www.nui.or.jp/gaiyou/gai_f3.htm
【主催】地理情報システム学会
【共催】(財)名古屋都市センター
【後援】東海北陸データベース懇話会
    名古屋地理学会
【参加総数】約200名
【参加費】無料

プログラム

10:30 開会   中部地方事務局設立報告
10:40〜11:20 名古屋の都市ストック化とグリーン化
林 良嗣(名古屋大学大学院工学系研究科)
GISとCGの統合化による3次元都市の自動生成
杉原健一(岐阜経済大学経営学部)
11:20〜11:40 航空機を利用した三次元計測手法について
徳村公昭(中日本航空株式会社調査測量事業本部)
11:40〜12:00 地域環境シュミレーションシステム−里山モデル
佐野滋樹(玉野総合コンサルタント株式会社地理情報部)

休憩

13:00〜13:30 我が国におけるGISをめぐる動向
高阪宏行(日本大学地理学科 GIS学会会長)
13:30〜14:00 GISをめぐる地方の動き
碓井照子(奈良大学地理学科 GIS学会関西地方事務局長)
14:00〜14:30 全国各地におけるGIS関連諸団体の活動状況
今井 修(国土空間データ基盤推進協議会)
14:30〜14:50 岐阜県が目指す県域統合型GIS
牛丸和彦(岐阜県基盤整備部情報通信基盤整備室)
14:50〜15:10 名古屋市とGIS
恒川平章(名古屋市総務局企画部情報化推進課)
名古屋都市センターにおけるGISの取り組み
田村正史((財)名古屋都市センター調査課研究員)

休憩

15:30〜15:55 ITSと自動車の進化
亀井秀敏(トヨタ自動車株式会社ITS企画部)
15:55〜16:20 ITSが豊田市から始まる
加藤満正(豊田市企画部総合交通対策課)
16:20〜16:45 環境学とGIS
溝口常俊(名古屋大学地理学教室)
16:45〜17:10 環境教育におけるGISの可能性
伊藤 悟(金沢大学地理学教室)
17:10〜17:40 空間情報科学研究センターの活動とその意義
岡部篤行(東京大学空間情報科学研究センター センター長)
17:40 閉会

講演概要

「中部地方事務局設立の報告,シンポジウム開催の趣旨説明」奥貫圭一(名古屋大学地理学教室)

GIS学会の中部地方事務局は,2000年春より名古屋大学地理学教室におかれました. 中部地方では万博や新空港など話題豊富で,これらに関わる形で環境やITSをめぐる研究プロジェクトが進んでいます.ただGISに関しては,関東・関西に比べてやや遅れをとっているようにも見え,今後の進展が望まれます.そこで,中部におけるGIS進展のきっかけとなるべく本シンポジウムを開催いたしました.


第1部 中部で進むGIS関連プロジェクト

「名古屋の都市ストック化とグリーン化」林 良嗣(名古屋大学工学研究科)
「GISとCGの統合化による3次元都市の自動生成」杉原健一(岐阜経済大学経営学部)

19世紀末のイギリスでは都市化が急速に進み,産業革命の終焉から生活革命への気運が高まった.都心部ではテラスハウスの計画的な建設などが行われ,豊かな都市環境を創造しながら,都市のストック化とグリーン化が計画的に進められた.しかし,日本では都市郊外部での開発が進み,土地利用が散在していることから,後世にストックできるような都市環境の創造には至っていない.そこで,今後の人口減少によって住宅空間が余剰することを考えると,インフラ整備の進んでいる都心部の民間建築物を「ストック化」することによって郊外の人口を都市空間へ回帰させ,将来世代の社会的資産として受け継がれる都市空間の創造が必要である.

まちづくりにおいて街並みイメージを共有しうる道具としての3次元都市モデルは,製作に多大な時間と労力を要してきた.そこで,GISとCGを統合化して,3次元の都市モデルを自動作成するシステムの構築を目指す.既存の電子住宅地図や数値地図をもとに,GISモジュールとCGモジュールを用いて表現する.建物ポリゴンの表現形式では,辺の曲がる方向の集合で表現し,属性データを合わせることによって,屋根つきの建物を表現できるようになる.また,道路は中心線を線分データとして扱い,属性データと位置を合わせることにより,自動生成が可能となる.土地利用シミュレーターでは,用途地域や道路斜線制限を受けた建物の範囲を考慮することにより,エンベロープと斜線制限となるプリズムを自動生成し,狭幅員道路によって制限されるエンベロープや,規制緩和されたエンベロープを表現できる.

「航空機を利用した三次元計測手法について」徳村公昭(中日本航空株式会社調査測量事業本部)

レーダーレーザー,慣性航法装置,GPSを搭載したヘリコプターを利用した,三次元地形計測システムを開発する.基地局と移動局のGPSデータ,INSデータ,測距・測角データをもとにした地形測量,市街地の形状調査等が可能である.具体的には,500分の1デジタルマッピングデータとの重ね合わせによる市街地計測,送電線の接近木離隔調査,河川3D表示と等高線図の描画による崩壊地の計測など,幅広い応用が可能である.


「地域環境シミュレーションシステム−里山モデル」佐野滋樹(玉野総合コンサルタント株式会社地理情報部)

瀬戸市の海上の森を対象地域とし,人間活動が里山の森林環境にどのような具体的な影響を及ぼすかについて,航空写真を用いて5mメッシュのDTMデータを作成することによって,森林の成長量や植生遷移を時系列的に解析しうる地域環境シミュレーションシステム(里山モデル)の開発を目指す.1949年1977年1995年の航空写真と都市計画図から5mメッシュのDEMを作成し,DSMデータとの差分から各年の樹高が算出された.また,各年のDSMデータの比較によって森林成長量が算出された.これにより,樹高や植生種別の時系列変化,斜面傾斜と植生の遷移,斜面傾斜と土地利用の関係が明らかになった.人為的地形改変や自然災害のようなイベントの影響や二酸化炭素固定量の推定が今後の課題として残される.


「実用GIS研究会」のお誘い 筒井信之(株式会社創建)

今後GISが地域の産業として機能していくためには,GISの持つ実用的側面を強調し社会にアピールしていく必要性がある.そのために,実用面の視点からGISの活用法を探求し情報発信を行うことを目的として「実用GIS研究会」の設立を提案したい.


第2部 GISに関わる内外の動向

「わが国におけるGISをめぐる動向」高阪宏行(日本大学地理学科 地理情報システム学会会長)

地理情報システム学会は,1998年から会員数は450人も増えたという,成長著しい学会である.内外から非常に関心が寄せられているといってもいいだろう.そんな中,空間データの整備として,数値地図データ等が急速に整備されている.これらは今後,街区整備等に利用され,更なる発展が期待できる学問分野である.また,メッシュデータは主に人口分布データなどにも応用されている. 今後,地方自治体への普及へ向けての問題点を指摘したい.GISの普及状況としては,3割の自治体に普及している.しかしながら,その設備の充実に対しての解析やサービスに関してのメリットと経済的,費用的なデメリット,制度的なデメリットが指摘されている. 従って,その問題点としては,チェックリストを設けてデータとしての地図を利用していく方向性を示していくべきである. さて,GISを利用した行政として,米国ノースカロライナでの成功例を挙げたい.制度的側面では地理情報分析センターの設置,地理情報構成委員会の設置の二つを軸として展開している.地理情報分析センターでは,分析ツールとしてのGISを利用する委託方式での利用から,情報での意思決定の支援(分析からの指摘)を行っている.また,地理情報調整委員会では,地理情報を州の戦略資源とする目的から,品質やアクセスや費用対効果を部門後ごとで調整する役割を果たしている.これらの共用地理データセットは,情報ハイウェーを通じて利用できるようにしている.例えば,交通や上下水道環境資源といった場面でこれらが発揮される. GISの今後の潮流としては,WEB GISとして活用できる時が来るのではないだろうか.例えば,インターネット用に地図サーバからダウンロードして空間データが取得できるといった一般向けのものから,企業内でイントラネット用のグラフィックオブジェクトの方法を提供する場としての活用ができるときが来ると予想される.また,インテリジェントGISといったような,空間モデルを援用した知能を生み出す可能性を示すことができるかもしれない.空間相互作用モデル方式などを利用して,顧客の流れなどから利益の予測を計算することができる.それによって,立地条件を具体的に予測できると考えられる.

「GISを巡る地方の動き」碓井照子(奈良大学地理学科 GIS学会関西地方事務局長)

近年,ようやく地元でGISの情報拠点を作る動きが出始めている.「全国にGISの地方組織を作る」という目的で地方事務局が各地に作られている.今後は,各地方との提携,情報の拠点としてフットワークを軽くし,しかも情報はすべて得られるような物でなくてはならない.そのような関係の中で,ネットワーク型の全国レベルでの活動が行われていくべきである.地方の事務局は,産学官それぞれと連携するような内容で,アカデミックな研究を目指していくべきである.つまり,学会で個人の知識を磨くとともにビジネスに生かせるような活動を目指いくあり方が理想である.  しかしながら,それらの情報を作成し,更新し,流通させるためのシステムを早急に確立しなければならないし,情報だけではなく,地図・測量といった産業や,管理するような部局がそれらに位置付けされていかなければならないという問題も抱えている.そんな中で,大学の研究者は知識提供の場として産業とより一層の提携を志していかなければならない.結論として,教育の場としてGISの技術者の育成が必要であり,産業と行政と学問との連携を密に取っていくことが必要となるであろう.

「全国各地におけるGIS関連諸団体の活動状況」今井 修(国土空間データ基盤推進協議会)

NSDIPAは,各企業内の38人が発起人となって設立した.これは,今後新産業として,情報が新しい社会を作る切り口となりうる.この団体は,GISの認識を大企業に進めてほしいという願いから,測量会社を入れていない.国と住民に対して,民間と研究機関と自治体とのネットワークをつくっていく.これは情報流通のための基礎的なものとなりうるであろう.これを国が整備し,民間が活用して新しい社会を築いていくべきだと考える.GISについてはもはや普及啓蒙の時代は過ぎて,これからはデータ等の蓄積の時代に来ているのではないかと考える.それらのもとで,次に目指すものはGISが紙に落とす情報ではなく,リアルタイムで提供できるツールとしてあるべきではなかろうか. GISが地方公共団体を中心にして働きかけているのは理解できるが,どれほど使われているのか,そこで,公開・参加型のGISにしていくべきだと考える.従来の情報に関する成果を見せて,享受する側に納得できるようなものでなくてはならない.また,管理するものが納得するような継続的な情報の構築が必要であると考える.


第3部 中部自治体GISの動向

「岐阜県が目指す県域統合型GIS」牛丸和彦(岐阜県基盤整備部情報通信基盤整備室)

岐阜県は,高度情報化戦略「情場」としての「高度情報基地ぎふ」を目指している.GISは自治体側におおいに期待されている.産業振興や情報提供,特に防災分野での活躍が期待されている.一方でコストや相互運用の困難性が指摘されている.例えば,森林,土地利用,砂防といった場面でほとんどの市町村で利用されているものの,その相互運用にはいたっていない.県域統合型GISの目標としては,産官学が有機的に統合することを目指している. また,もっと処理を簡略化していくことも大きな課題として残っている.重複したデータを共有化することで二重投資の回避ができるという結論が導き出された.これらは,県庁や市町村の窓口でGIS専用窓口を設けるなどの配慮といった対応が考えられるであろう.しかしながら,それらの技術,整備,共有面での課題が残っている.これらを克服しながら,公開・提供型GISを目指していきたい.

「名古屋市とGIS」恒川平章(名古屋市総務局企画部情報化推進課)

「名古屋市都市センターにおけるGISの取り組み」田村正史((財)名古屋都市センター調査課研究員)

現段階までに地域情報管理システム,地域環境情報,地盤環境情報,土地取引管理システムなどを,都市計画基本図を,デジタルマッピングで活用している状況である. 今後は広い意味でのGISで開発からパッケージ利用と転換を図っていくことも考えられる.例えば,市販地図を利用することによってコストダウンを図っていく,あるいは,標準化するガイドラインの策定と,WEBとの対応を図っていくべきである.それによって,地図関連データベースを市民利用できるようにしていく. 実用面ではある程度のデータを省略していく方が利用できるときもある(住宅地図の例)正確よりも分かりやすい,すなわち有効活用が期待できる.アカデミックではない部分でも活躍を期待できるのではなかろうか.


第4部  中部のITS

「ITSと自動車の進化」亀井秀敏(トヨタ自動車株式会社ITS企画部)

ITSを使用し,高度情報通信社会における自動車交通の新たなる展開を模索する.ITS推進のための5つのコンセプト(=車のインテリジェント化・カーマルチメディア・ファシリティー・ロジスティクス・トランスポート)が必要とされるであろう.今後の課題としては1)研究開発・実用化推進組織の確立,民活の取り組み 2)デモ・学習による社会的コンセンサス 3)ISO活動におけるリーダーシップ 4)官民学の協調が挙げられる.

「ITSが豊田市から始まる」加藤満正(豊田市企画部総合交通対策課)

豊田市は自動車保有率が高く,愛知県内の交通死亡事故ワースト1というゆゆしき状況である.こういったことから,渋滞をなくし人にとって本当に安全で利用のしやすいシステムの構築を目指している.道路利用の効率化,自動車利用の効率化(イベント時のパーク&ライド実験,EV共同利用実験,物流の効率化に関するFS)のための3つの実験メニューを実行・評価採点し,道路交通情報システム高度化を試行した.今後の課題として,市民にいかに満足できる(実験の域を出た実際的な)交通サービスを提供できるかどうか,である.


第5部 GISと研究・教育

「環境学とGIS」溝口常俊(名古屋大学地理学教室)

最近になって,名古屋大学では自然環境(地球環境科学専攻)・物質環境(都市環境学専攻)・人文・社会環境(社会環境学専攻)という3つの学際的分野が文理融合し,新しい「環境学」を立ち上げることとなった.それらの協調関係の中で,GISを共通軸とした(従って地理学教室がイニシアティヴを取りつつ)新しい研究方法を切り開こうと努力している.例えば,ベトナム中部における水害ハザードマップの作成・歴史時代の文献からの社会環境の地図化や分布図作成などを通じて,研究分野における今後のGIS利用の発展を志している.

「環境教育におけるGISの可能性」伊藤 悟(金沢大学地理学教室)

従来はビジネス分野で積極的に活用されてきたGISであるが,最近では学校教育の現場に於いて注目されてきている.わが国の環境教育の考え方とは,環境(=自然環境+人為的環境)と人間との関係を取り上げ,活動や体験,身近な問題を重視しつつ総合的な把握力・思考力・判断力の育成していくものであり,ますますGISの活用が教育の中で望まれている.アメリカでの「まちの地図づくりプロジェクト」や「GEODESY」開発プロジェクト,日本でのインターネットGIS教育やモバイルGISの試みなどを通じ,学校教育の中での環境教育とGIS活用の有効な融合をわが国でも発展させてゆく必要があろう.

「空間情報科学研究センターの活動とその意義」岡部篤行(東京大学空間情報科学研究センター)

1988年,地図の博物館と新地図学(=地理情報科学)の研究センター設立を目指しプロジェクトが立ち上がったが,欧米に遅れること10年―1998年になってようやく,東大に空間科学情報センターとして設立される運びとなった.研究センターの意義目的は1空間情報科学の先端研究所としての役割,2研究空間データ基盤の整備(=収集・加工の手間,高い費用の軽減のためデータを整理してネットワークで研究者に共有できるシステムの構築 サイトの活用),3産官学共同研究の推進(センターとの共同研究,学者の研究分野を掲載した名簿情報の公開,空間データを媒介とした共同研究の場)などが挙げら,将来の課題としては,学内共同センターから全国共同センターへの拡大と全国分散型ネットワークとしてのセンターの構築が望まれている.


GIS学会中部地方事務局